昨年8月25日、12月21日が世界にとって特別な日になった。FIBAワールドカップ2023開幕日でもあったその日、バスケットボールは、世界を変えることができるグローバルスポーツであると、国連に認められたのだ。12月21日が「世界バスケットボールデー」として制定され、これによりバスケットボールは、国連の記念日がある初のチームスポーツとなった。1
FIBAワールドカップ2023は、日本バスケットボール界にとっても、男子代表チームが48年ぶりにオリンピック大会の出場権を自力で得ることができた思い出深い大会だった。だが、その世界スポーツ界のビッグイベント開幕日は、もう少し広い視野からも特別感をもって記憶されるべきである。
昨年12月21日、史上初の「世界バスケットボールデー」には、世界バスケットボール界は盛大なセレブレーションを実施した。FIBA(世界バスケットボール連盟)はIOC(国際オリンピック委員会)と連携して記念イベントを実施2、NBA(米国プロバスケットボールリーグ)は公式サイトにコミッショナーのコメントを公開、(別トピックの)記者会見でも記念日に言及し、エジプトを含む世界中で様々なイベントを実施した3。また国連ニューヨーク本部では、「バスケットボールと平和」と題されたラウンドテーブルが開催され4、「Happy World Basketball Day」の開会の挨拶とともに、各国外交官や特別参加のユースリーダーに、「Dr. J」こと元NBA選手のジュリアス・アービング氏も加わった。
ここで、多くの方は「バスケットボールが国連と何の関係があるの?どうして?」と思うかもしれない。
同じ疑問を抱いたら、是非この本を読んで頂くことをお勧めしたい。
この本の著者で、ニューヨーク大学で同じタイトルのクラスの教鞭をとるデイビッド・ホランダー教授は、なぜ、「どうしたらバスケットボールが世界を救うことができるか」について合理的に説明している。
『How Basketball Can Save the World』のなかで、ホランダー教授はバスケットボールの性質や特徴を独自の手法で分析している。そして、「協力すること」から「限界を超えること」まで、NBA選手や幹部を含む世界の現場での多くの事例を活用しながら13の原則にまとめ、具体的なNPO等の活動も紹介しながら、様々な社会問題の改善に向けて、バスケットボールがどのように貢献できるのかについて、解説している。そして、彼がこの本にまとめた原則が、歴史的に有意義な国連決議のための代表団を動かしたのだ。
今回新しく始動するオンラインメディア “GlobasketUnited” は、世界で行われているこういった “Basketball for Good” のムーブメントを日本で広め世界とつながることを目的としている。その旗艦シリーズとして展開するのが、サイト名と同じタイトルの “GlobasketUnited” 記事シリーズだが、その初回では、「世界バスケットボールデー」設立、また弊団体のWorld Basketballl Day プロジェクトの礎となり、日本での世界バスケットボールデープロジェクトにとっても重要なコンセプトがつまった『How Basketball Can Save the World』の著者であるホランダー教授をお招きする。
幸運にも、筆者は、ホランダー教授とともに現在FIBA財団のアドバイザーを務めており、世界バスケットボールデー設立の背景やプロセスについてインタビューをする機会を得たので、その主要部分を皆さんと共有したい。
Q1) 世界バスケットボールデーのアイデアはどんなきっかけから生まれたのですか?これまでのご経験から、また日頃から考えていらっしゃったことの集積でしょうか。もしくは、この行動を起こすに至った何か特別なできごとなどがったのでしょうか。
私は大学で本と同じタイトルの授業を教えていて、アイデアはクラスの課題から発展したものです。ですので、最初は、学生がニューヨークの外交官にパワポをたくさん送る、ということころから始まりました。
今、世界は共通の言語を必要としています。SDGsや世界一丸となって取り組まないといけない様々な課題に対して連帯し団結するための機会が必要です。バスケットボールは、世界各国に普及しているスポーツですから、その影響力を活用すれば、世界を良い方向に導くきっかけになるのではと考えました。世界中の人々がひとつのことに注目し、団結して皆でともにその日をきっかけに行動を起こす、という設定が重要なのです。
Q2) 昨年の世界バスケットボールデーに国連ニューヨーク本部で開催されたラウンドテーブルで、「国連記念日を設定するというアイデアを実現するためのプロセスは当初は大変だった」と述べられていましたが、それを見事に実現されました。どなたがリーダーシップをとり、どのようにチームを結成してその困難を乗り越えたのでしょうか。
国連総会で決議を採択するには、それを推進する国がひとつ必要です。バスケットボールとの関連性が高い国々は、もちろん米国も含めていくつかありますが、バスケットボール愛、バスケットボールとの深い関係という点においてフィリピンに敵う国はありませんでした。フィリピン大使のノエル(ノヴシオ氏)が私のポイント・ガードでした。バスケットボールと同じで、誰が何をするのが得意か、を理解するのは大事です。私は交渉のすべてを彼に任せ、ほぼ毎日情報交換をしながら、適宜必要な対応をしました。
Q3) 8月25日に正式に国連記念日が制定されるまでのプロセスについて少しご説明いただけますでしょうか。また、国連決議採択の瞬間、どのような気持ちで、どんな反応をされましたか?
6月にノエル(ノヴシオ大使)とミーティングをしてから、8月25日の国連決議までは、ほぼ毎日いろいろなことが起こり、交渉ごとが発生ました。ノエルは、そういった状況対応には本当に長けていました。
プロセスについては、まず私たちはすべての国連加盟国に通知しなくてはなりませんでした。それからコメントを受ける期間があり、それが終わると総会での全会一致での決議に諮ることになります。代表団は、フィリピンがリードし、インドネシア、ニカラグア、ペルーも自主的に参画しました。そして、この動きは、日本を含む77カ国の支援を受けて進みました。否認投票をする国がなければ、決議は全会一致として採択されますが、私たちの場合も否認投票はなく、採択に至りました。実は、採択の日が8月25日、FIBAワールドカップの開幕日となったのは、幸運な偶然で、代表団もそうなると記念日としてもよいとは考えていましたが、採択日をこちらから指定することはできないのです。
国連での決議の際、私は国連総会が開催されているその会場にいて、フィリピン大使館の方々の隣に座って投票を見ていました。そして、決議を聞いた瞬間には、立ち上がって隣のフィリピン大使館員を抱きしめ、ひとこと、「ありがとうございました」と言いました。
※冒頭イメージ写真:国連決議がなされた会場当日の様子(提供:David Hollander 教授)
4) 史上初の世界バスケットボールデーのイベントには、国連でのラウンドテーブルとNYUバスケットボール部と連携した1on1映像以外には、どれくらい関わっていらっしゃったのですか?
国連では、特別な会合を企画し, “Dr J” ことジュリアス・アービング氏やNaismith Basketball Hall of Fameの代表者も数十カ国の大使に加わり、実施しました。その会合の後、地域のYMCAで各国大使が参加するバスケットボールのゲーム大会を実施しました。世界バスケットボールデーの趣旨を体現できた、素晴らしいイベントでした。
5) 史上初の世界バスケットボールデーが世界中で祝福されていることに、どのように感じられましたか?
世界中からいろいろな発信やストーリーが数えきれないくらい溢れてきて、圧倒されました。その光景は、世界全体が世界バスケットボールデーの設立を待ちかねていたかのように感じました。
6) ホランダー教授は、バスケットボールのプレイ経験もおありで、私たちはスポーツが人々を団結させる力を理解、実感していますが、ご自身がバスケットボールの力を人生で初めて体感された時のお話などお伺いできますか?
私が6歳の時、父が自宅の裏庭にハーフのバスケットボールコートをつくってくれました。そこで私は、特別な言語を体得しました。そして、それ以来、私はその同じ言語をずっと世界中のどこにいっても使い続けています。
7) 近い将来、また未来に向けて、世界バスケットボールデーがどのように発展していくことを期待されますか?
世界のカレンダー上で、神聖な日になればと思っています。時計が止まり、赤子も泣き止み、誰もの心のなかに、世界に通じる平和と安定を感じることができる、そんな日になることを願っています。
写真提供:David Hollander教授
ホランダー教授は、11月22日開催の弊団体主催の世界バスケットボールデー啓発ウェビナー“World Basketball Day 30-days to Go”で映像にてメッセージをお贈り頂きます。バスケットボールの力について、またその力を活用してともに世界を救うためにはどうしたらよいか、について学んでいただくための機会に、是非ご参加ください。
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“GlobasketUnited” 記事シリーズでは、毎回、在日大使館を訪問し、各国のバスケットボール人気やどうしたら世界がバスケットボールを通じてつながることができるのか、についてお話をお伺いしレポートいたします。取材してほしい国などあれば、ご連絡ください。