4億5000万人がプレイする世界的に人気スポーツであるバスケットボール。一般社団法人 Next Big Pivot 代表理事・FIBA財団2023-2027期アドバイザーの梶川三枝がバスケ強豪国の在日大使館を訪問し、各国のバスケ事情について4つの視点から話しを聞くこのシリーズでは、各国で異なる文化的背景や人気度、社会貢献のためのバスケットボールの可能性について詳しいお話を聞いていきます。
このインタビューを通して、GlobasketUnitedは次の4つの視点から、バスケットボールの人気と可能性を学びます。
1st Quarter:各国でのバスケットボール人気について
2nd Quarter:各国でのスポーツ政策について
3rd Quarter:社会貢献のためのバスケットボールの力
4th Quarter:日本のバスケットボールについて
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オーストラリアは、バスケットボールを外交、コミュニティづくり、そして自己能力を高める強力な手段として活用しています。後半では引き続きオーストラリア大使館で広報を担当するBec Allenさんとの対話を通じて、ソーシャルグッドの推進におけるオーストラリアの重要な役割や、スポーツがオーストラリアと日本の関係を強化していることについて詳しいお話しを聞いていきます。
第3クォーター:ソーシャルグッド(社会善)のためのバスケットボールの力 〜団結とインパクトをもたらすスポーツ〜
— バスケットボールがオーストラリアで社会的に良いインパクトを与えるために、どのように活用されているか、いくつか例を教えていただけますか?
Ms. Bec Allen:
3つの例をご紹介しますね。
まず、エリートレベルでは、私たちは特にインド太平洋地域に焦点を当てたスポーツ外交戦略を推進しています。これはオーストラリアの外交政策の一環です。その戦略の主要な柱が、インド太平洋地域、特に太平洋地域とのつながりを強化することです。
たとえば「PacificAus Sports(パシフィック・オース・スポーツ)」というプログラムでは、太平洋地域のエリート選手たちが国際舞台でトレーニング・競技できるよう支援しています。バスケットボールにおいては、フィジーやサモアのナショナルチームをサポートし、オーストラリアでのトレーニングや国際大会への出場を可能にしています。これにより、アジア競技大会、FIBAワールドカップ、さらにはオリンピックへの出場を目指せる競技力を育んでいます。
このモデルは、ラグビーセブンズなど他競技でも成功を収めています。実際、私たちが支援したフィジー女子チームはオリンピックでオーストラリア代表を破りました。それはたとえ負けたとしても、重要な成果指標(KPI)だと思います!
次に、草の根レベルでは「Team Up(チームアップ)」というプログラムがあります。これも太平洋地域が対象で、スポーツを社会開発のツールとして活用しています。バスケットボールは7競技のひとつとして含まれており、太平洋のいくつかの国で実施されています。このプログラムでは、女性や女の子、障がいを持つ人々、家族、地方や離島のコミュニティがスポーツにアクセスし、参加できることを重視しています。
これら2つが、オーストラリアが太平洋地域で展開している主要なスポーツ外交・スポーツ開発プログラムで、現在この地域で最大規模の取り組みとなっています。
3つ目は、国内での取り組みで「Indigenous Basketball Australia(IBA)」という団体です。これは男子バスケットボール代表「ブーマーズ」のキャプテンであるパティ・ミルズ選手が立ち上げたものです。IBAは、先住民族の若者や、多文化・多言語背景を持つ若者たちを、バスケットボールを通じて支援しています。
IBAは、スポーツを通じて社会的な結束を促進し、若者たちに前向きな活動の場と意義ある機会を提供しています。特に地方や離島のコミュニティにおいて大きな効果を発揮しており、非営利団体として運営されています。
— ミルズ選手は自身が成功を収めたからこそ、恩返しがしたかったんですね。
Ms. Bec Allen:
そうです。彼は本当に素晴らしいロールモデルです。先住民の子どもたちだけでなく、非先住民の子どもたちからも憧れの存在なんです。
— わぁ、それは素敵ですね。バスケットボールが、オーストラリア国内だけでなく、太平洋地域全体にもポジティブな影響を与えているんですね。エリート選手、地域コミュニティ、そして国際協力と、3つのレベルすべてに成功例があるとはすごい。他国の支援までしているなんて!
Ms. Bec Allen:
はい、私たちは他国が競技で活躍できるようにサポートしていますし、できれば私たちを打ち負かすくらいに強くなってほしいと思っています!
— それはまさに本当の成功ですね。オーストラリアは太平洋地域でリーダーシップを発揮しているんですね。
Ms. Bec Allen:
このことは、私たちの国家としてのアイデンティティの一部なんです。スポーツには、国やコミュニティをつなぐ特別な力があります。特に太平洋地域においては、それがとても効果的です。スポーツは楽しくて、力強い「つながりの手段」なんです。
でも、それだけではありません。スポーツにはコミュニティのリーダーシップを育てる力もあります。アスリートは、インクルージョン(包摂)や健康的な生活を促すポジティブなロールモデルやリーダーになれるのです。だから私たちにとってスポーツへの投資は、戦略的であるだけでなく、日常生活に実際的で具体的な恩恵をもたらすものでもあるんです。
— なるほど。オーストラリアは大きな島国で、太平洋の国々は小さな島国がたくさんあります。間には広大な海があるけれど、それでもひとつのコミュニティだと捉えているんですね。
Ms. Bec Allen:
まさにその通りです。私たちはそのように話しています。地理的にも、オーストラリアは太平洋の一部です。私たちはよくこの地域を「パシフィック・ネイバーフッド(太平洋のご近所)」と呼び、そこに住む人々を「パシフィックの友人たち」と呼んでいます。
そして、それは私たちの国内コミュニティにも表れています。オーストラリアにはフィジー、トンガ、サモアなどの国々にルーツや家族的なつながりを持つ人々がたくさんいます。この地域とのつながりは、とても個人的で、深く根ざしたものなのです。だからこそ、とても自然なことなんです。
— なるほど。スポーツが人々をつなぐ強力なツールだと信じているのですね。
Ms. Bec Allen:
もちろんです。最後にもうひとつ、日本と「ソーシャル・グッド」というテーマに関連して強調したいことがあります。それは、パラスポーツへの関心と投資が高まっているという点です。特に東京2020以降、その流れが加速しています。
私たちは「パラスポーツジャパン」とも密接に連携しており、車いすバスケットボール、車いすラグビー、ゴールボール、ブラインドサッカーなどの分野で協力しています。現在、日本を訪れるオーストラリアの代表チームの中で、最も多いのはおそらくパラスポーツチームです。
特に車いすバスケットボールは、日本とオーストラリアの両方で大きな盛り上がりを見せています。
私たちは良きライバルであり、強力なパートナーでもあるのです。
–確かにパラスポーツはバスケットボールコミュニティにおいても非常に重要な存在です。国際バスケット連盟(FIBA)も、スポーツを通じて障がいのある人々のエンパワーメントに取り組んでいます。

第4クォーター:日本のバスケットボールへの視点 〜カールーからコートへ:バスケットボールが国をつなぐ〜
—- 4つ目の質問は、日本のバスケットボールや日本代表チームについてどう思っているか、ということです。ご意見を聞かせてください。
Ms. Bec Allen:
実はそのために、今日はカールーを連れてきたんです。
— えっ?カールー?
Ms. Bec Allen:
こちらが「カールー(Karlu)」です。彼女は2022年にシドニーで開催されたFIBA女子ワールドカップのマスコットだったんです。
— ああ、覚えています!FIBA女子バスケットボール・ワールドカップがオーストラリアで開催されたんですね!あれが日本とオーストラリアの最後の対戦でしたよね?
Ms. Bec Allen:
はい、そうです!そして私たちが勝ちました。スコアは71対54。オーストラリアがリベンジを果たしました!
あの大会は、いくつもの意味で非常に重要なものでした。なかでも大きかったのは、「グリーン&ゴールド・ディケイド(Green and Gold Decade)」の始まりとなったことです。
「グリーン&ゴールド・ディケイド」は2022年から2032年までの10年間を指していまして、最後を飾るのがオリンピック・パラリンピック(2032年開催予定)となります。この10年間で、オーストラリアは世界の7大スポーツイベントのうち5つを開催予定です。その第一弾がFIBA女子ワールドカップでした。
2023年にはFIFA女子ワールドカップが開催され、なでしこジャパンとマチルダス(豪州女子代表)も出場しました。本当に素晴らしい大会でした。来年はAFC女子アジアカップが開催され、また「なでしこ vs マチルダス」の対戦が見られることを期待しています。
そして、2027年には男子ラグビーワールドカップ、2029年には女子ラグビーワールドカップ、2032年にはオリンピック・パラリンピックを開催します。
―― つまり、完全に計画された10年間なんですね。「グリーン&ゴールド・ディケイド」は。
Ms. Bec Allen:
当初は「グリーン&ゴールド・ランウェイ(滑走路)」と呼んでいたのですが、スポーツ関係者から「“ランウェイ”ってファッションみたいじゃない?」と言われて、ディケイド(10年)に変更しました(笑)。
この10年のスタートが、しかも女子バスケットボールから始まったというのは、とても特別なことでした。あの10日間のトーナメントは会場はオリンピックパークで、すべての試合が満席でした。2000年のシドニーオリンピックの施設を活用し、大成功でした。
ーー 次にオーストラリアと日本がバスケットボールで対戦するのはいつになりそうですか?
Ms. Bec Allen:
おそらく次のFIBA男子ワールドカップでしょうね。ただ、全てのスポーツで、もっと国際親善試合を増やしていこうという流れがあります。
―― それは素晴らしいアイデアですね。
Ms. Bec Allen:
ラグビーやサッカーではすでに定期的に親善試合が行われていますし、バスケットボールでももっと増えてほしいですね。
―― 実は最近、BリーグとNBL(オーストラリアのプロバスケットボールリーグ)の協力に関するニュースを見つけました。現在、これまで以上に密接に連携していて、日本の若手選手をNBL1(オーストラリアの2部リーグ)に送り出す取り組みも進んでいます。
このリーグは(日本選手にとって)フィジカル面でも、競争力の高い環境でスキルを磨く絶好の機会であり、国際レベルでプレーする経験も積めます。身体的な挑戦だけでなく、言語や文化の壁にも向き合わなくてはなりません。英語環境に適応することは、本当に貴重な経験です。
去年のFIBAワールドカップ直前にも国際親善試合があったのを覚えていますし、これからもさらに多くの対戦が楽しみです!そして、より一層の連携が進むことを願っています。本日は本当にありがとうございました!