Basketball for Social Change

GlobasketUnited

“Globasket United” #3 オーストラリア(前編)

国際バスケットボール連盟(FIBA)によると、バスケットボールは世界で4億5000万人がプレイする競技に成長しています。米国のNBAはその頂点に君臨し、世界200カ国以上、40を越える言語で放映されていることからもその人気が伺えます。しかし世界的に人気のバスケットボールも、各国でその人気を支える文化的背景や人気度、バスケットボールの社会的価値に対する考え方も様々です。シリーズでお送りする「GlobasketUnited」では、FIBA財団アドバイザーも務める、Next Big Pivot 代表理事の梶川三枝が各国の大使館を訪問し、次の4つの質問を通して、各国のバスケットボール事情についてお話しを聞いていきます。

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1st Quarter :各国でのバスケットボール人気について
2nd Quarter:各国でのスポーツ政策について
3rd Quarter:社会貢献のためのバスケットボールの力
4th Quarter :日本のバスケットボールについて

バスケットボールの新興勢力として台頭するオーストラリア

オーストラリアの多くのトップ選手たちは、現在NBAでの存在感が増しているだけでなく、日本のBリーグを含む世界中のプロリーグで活躍しています。

「オーストラリアはスポーツを外交手段として活用しています」と語るのは、在東京オーストラリア大使館で広報を担当するBec Allenさんです。2015年、オーストラリアは世界で初めて本格的なスポーツ外交戦略を打ち出しました。現在では政府が国際スポーツの分野で中心的な役割を担い、スポーツ好きな国民からもその前向きな影響を受け入れられています。

今回は、Bec Allenさんと、同大使館で広報アシスタントを務めるCody Williamsさんに、オーストラリアがバスケットボールで成功を収める背景を伺いました。

1st Quarter:バスケットボール人気について-アクセスのしやすさ、地域とのつながり、そして国の誇り

バスケットボールはオーストラリアでどのくらい人気がありますか?調べたところ、貴国の代表チームは東京2020オリンピックで銅メダルを獲得されていましたね、おめでとうございます。また、過去のオリンピックにもほぼ毎回出場されているようで、その人気ぶりがうかがえます。

Ms. Bec Allen: バスケットボールはオーストラリアでトップ5に入る人気スポーツで、特に若い層を中心に年々人気が高まっています。実際、オーストラリアで最も急成長しているスポーツのひとつです。

移民の増加により、オーストラリアは若く多様な人口構成になっており、レクリエーションとして、またはプロとしてバスケットボールをプレーしたいという人が増えています。バスケットボールは、街中や学校、地域クラブ、国内リーグ、国際大会まで、あらゆる場でプレーされています。

プロのバスケットボール選手を目指す人たちへの道も整っていて、ファン層も着実に広がっています。男子のNBL、女子のWNBLといったプロリーグもますます人気が高まっています。

我が国の代表チームであるブーマーズ(男子)とオパールズ(女子)は、近年のオリンピックで素晴らしい成果をあげています。東京2020で銅メダルを獲得したことは、オーストラリアのオリンピックでの長い参加歴の中でも、大きな成果でした。

オリンピックの大きなレガシーの一つは、草の根レベルでの競技人口が増えることですが、特にバスケットボールにおいてそれが顕著に見られました。

地域レベルでは「オージー・フープス」というプログラムがあり、子どもたちにバスケットボールの楽しさ、健康・社会面での恩恵を伝えています。このプログラムは地域のクラブや保護者、ボランティアによって運営されていて、小中学生を中心に日常的にバスケットボールを親しめる環境が整っています。

日本の学校にある部活動のようなものは、オーストラリアにもありますか?

Ms. Bec Allen
基本的に、学校よりも地域クラブと結びついていることが多いですね。町単位、地域単位で運営されています。たとえば「ブルーハーバー」という町には、「ブルーハーバー・バスケットボール・クラブ」というような名前のクラブがあります。とてもコミュニティベースです。

ただし、学校の中でもバスケットボールはプレーされていて、学校対抗の大会も行われます。日本のように、まず地域大会から始まり、州、そして全国大会へと進んでいく形です。

学校の中でも、地域の中でも、それぞれに関わり方があり、最終的には国内トップの学校チームとしての大会もあります。

なるほど。バスケットボールが生活の中に溶け込んでいるから、始めやすくて、観るのも楽しみやすいということですね。

Ms. Bec Allen
まさにその通りです。とてもアクセスしやすいスポーツなんです。オーストラリアのほとんどの町に――たとえ田舎町でも――バスケットボールの施設はあります。他のスポーツは必ずしも同じ状況にはなく、バスケットボールは国全体に均等に広がっている、数少ないスポーツのひとつです。

素晴らしいですね。町のあちこちでバスケットコートやリングが見られるんですね。

Ms. Bec Allen
その通りです。特に小さな田舎の町では、子どもたちはよく路上でプレーしています。多目的なコートがあって、バスケットボールのラインが引かれ、テニスのマーキングもあったり、ネットボール用のリングもあったりします。複数のスポーツを一緒にできるような施設になっているんです。

ネットボールも、バスケットボールに似たスポーツで、特に女性に人気です。

公園の一部のような感じですね。

Ms. Bec Allen
そうです!芝生の広場があって、そこでサッカーなどができるようになっていて、私たちはそれを「オーバル」と呼びます。その隣に、バスケットやテニス、時にはバレーボールのコートが並んでいます。もし学校がとても充実していたら、スケートパークなんかもあるかもしれません。でも、たいていはバスケットボールコートは必ずありますね。

素敵ですね。お二人はバスケットボールをプレーしますか?

ウィリアムズ氏:
お遊び程度ですが。学校の体育の授業でやったことはあります。クラブに入っていたわけではないですが、子どものころの思い出の一部です。

オーストラリアの学生は、たいてい学校でバスケットを経験するのですか?

Ms. Bec Allen
はい、希望すれば誰でもプレーできます。

それは日本も同じです。

Ms. Bec Allen
ただ、私は身長が足りなかったですけどね(笑)。

でも、学校の体育の授業でバスケができて、地域にはクラブがあって、大会の仕組みも異なっているんですね。

Ms. Bec Allen
はい。そしてプロリーグもあります。女子のWNBL、男子のNBLなどで――それぞれ都市ごとにチームがあって…

シドニー・キングスですね!

Ms. Bec Allen
そうです!シドニー、アデレード、メルボルンなどの都市にチームがありますし、郊外の地域――たとえば西シドニーや、メルボルン近郊のジーロングなどにもチームがあります。代表チーム(ブーマーズとオパールズ)の選手たちは、こうした国内リーグから選ばれています。

ちなみに、バスケットボールのシーズンは10月から4月とのことですね。

Ms. Bec Allen
そうです。オーストラリアではプロのバスケットボールシーズンは夏なんです。

トップレベルの選手の中には、日本や台湾、そしてアメリカのNBAでプレーしている人もいます。

今、何人くらいのオーストラリア人選手がNBAにいますか?

Ms. Bec Allen
現在は7〜10人ほどの男性選手と、アメリカでプレーしている女性選手が5人くらいだと思います。ドラフトが近いので、最新の数字は分かりませんが。日本のBリーグでプレーしているオーストラリア人選手は3人と聞いています。

オーストラリアは南半球にありますし、他のリーグはほとんど北半球なので、両方のシーズンに参加することが可能なんです。だから、年間を通じてエリートレベルでプレーできる絶好の機会になります。

両方のリーグでプレーできるんですね?

Ms. Bec Allen
はい。1年のうちに両方のシーズンでプレーを試みる選手もいます。たとえば一方のシーズンで怪我をしても、回復すればもう一方のリーグに参加することもできます。

ただ、オリンピックやワールドカップの年になると選手は非常に忙しくなります。どのスポーツでもそうですが、トップ選手にとって重要なのは、試合経験の積み重ねなんです。

オーストラリアにはナショナル・フレームワーク(全国的な枠組み)はありますが、チーム数が限られているので、選手には可能な限り試合経験が求められます。そのため、多くのトップ選手は海外のリーグにも参加しています。

オーストラリアでは、プロのバスケットボールの試合を観戦する人は多いですか?会場にも行きますか?

Ms. Bec Allen
はい、たくさんの人が試合を観に行きますし、テレビでも放送されています。WNBLもNBLも、基本的には無料の地上波テレビで放送されています。チケットも手頃な価格なので、家族やファンにとってとてもアクセスしやすいです。

アリーナの収容人数はどのくらいですか?

Ms. Bec Allen
会場によって異なりますが、たとえばシドニー・キングスのアリーナは1万人以上を収容できます。

オーストラリア人はテレビでスポーツを見るのが大好きで、特にアメリカで活躍する選手を追いかけている人が多いです。たとえばパティ・ミルズは、非常に有名で、国民的英雄です。彼がアメリカで出場する試合は、たくさんのオーストラリア人が観ています。

彼は男子代表「ブーマーズ」のキャプテンでもあり、現在オーストラリアで最も知られたバスケットボール選手だと思います。パティは金メダル獲得を本気で目指しています――オーストラリア男子は、これまで金メダルを獲得したことがないんです。東京での銅メダルは、初の快挙でした。

次のオリンピックはロサンゼルス、その次はブリスベンで開催されます。もし彼が健康を維持して良い状態を保てれば、地元開催のブリスベンでは本当にチャンスがあると思います。彼はクイーンズランド出身で、アイランダー(島しょ部の出身)なので、母国の地でプレーできることはとても意義深いことです。本当に金メダルを狙えると思います。

2nd Quarter:スポーツ政策/バスケットボールの社会的インパクト ― 多様性、包括性、変革の力

次の質問は、スポーツ政策についてです。日本では、文部科学省の下にスポーツ庁がありますが、あなたの国ではどのような仕組みになっていますか?スポーツを国家戦略としてどう位置づけているか、教えていただけますか?

Ms. Bec Allen:
オーストラリアには「スポーツ局(Office for Sport/略称OFS)」という機関があり、日本のスポーツ庁と似たような役割を担っています。ただし今週、先週の選挙の影響でOFSの所管省庁が変更されました。以前は「保健省(Health portfolio)」の下にありましたが、現在は「通信・インフラ省(Communications and Infrastructure portfolio)」に移りました。

このOFSは、スポーツに関する政策立案、予算配分、プログラム実施を担う連邦政府の機関です。そしてこの下に「スポーツ・オーストラリア(Sport Australia)」や「オーストラリア・スポーツ委員会(ASC: Australian Sports Commission)」といった実務を担当する組織があり、スポーツ振興や地域との連携を進めています。

OFSは「スポーツ2030(Sport 2030)」という文書に沿って運営されています。これは、オーストラリアにおけるスポーツの発展を目的とした国内向けの国家戦略で、いわばスポーツ分野における5カ年計画であり、SDGsのような指針です。

さらに「スポーツ・ディプロマシー2032+(Sports Diplomacy 2032+)」という姉妹戦略もあり、これは国際的なスポーツ外交を推進するための方針です。実はオーストラリアは、2015年に世界で初めてスポーツ外交戦略を打ち出した国なんです。

つまり、スポーツを通じて外交的な目的を達成しようという明確な戦略であり、まさに私たち大使館が取り組んでいることでもあります。これら二つの戦略は、オーストラリア政府がスポーツ分野で国内外において掲げる目標を方向づけるものです。

この二つの戦略のもとには、多くの具体的なプログラムが展開されています。例えば、エリートレベルでのトレーニングや競技活動は「オーストラリア・スポーツ研究所(AIS: Australian Institute of Sport)」が担っています。

AISは約20の競技を対象にトップアスリートを育成する大規模なエリート訓練機関で、オリンピック選手やパラリンピック選手の育成を主眼としています。

一方で、先ほども触れたように、「Aussie Hoops(オージー・フープス)」のような地域に根ざしたプログラムもあり、子どもたちがバスケットボールに親しみながらスポーツを楽しめるよう支援しています。

AISは法律に基づく公的機関で、政府の資金によって運営されており、スポーツ分野における「最高の中の最高」を育てる役割を果たしています。たとえば、演劇やサーカス芸術、スポーツなどに特化した専門学校のような存在といえるでしょう。

— つまり、文化を促進するために、政府によってかなり中央集権的に運営されているということですね?

Ms. Bec Allen:
スポーツも同様です。それぞれの競技には、それぞれの国内統括団体があり、全国各地の代表者からなる理事会によって運営されています。ただし、エリートレベルの選手育成に関しては中央集権的に行われています。そのほうが、限られたリソースを最大限に活用できるからです。

— 理想的ですね。

後半へ続く)

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