Basketball for Social Change

GlobasketUnited

GlobasketUnited – ドイツ【前編】

“Globasket United” #2 Germany

国際バスケットボール連盟(FIBA)によると、バスケットボールは世界で4億5000万人がプレイする競技に成長しています。米国のNBAはその頂点に君臨し、世界200カ国以上、40を越える言語で放映されていることからもその人気が伺えます。しかし世界的に人気のバスケットボールも、各国でその人気を支える文化的背景や人気度、バスケットボールの社会的価値に対する考え方も様々です。シリーズでお送りする「GlobasketUnited」では、FIBA財団アドバイザーも務める、Next Big Pivot 代表理事の梶川三枝が各国の大使館を訪問し、次の4つの質問を通して、各国のバスケットボール事情についてお話しを聞いていきます。

1st Quarter :各国でのバスケットボール人気について
2nd Quarter:各国でのスポーツ政策について
3rd Quarter:社会貢献のためのバスケットボールの力
4th Quarter :日本のバスケットボールについて

ドイツはなぜ世界バスケットボール界を席巻することができたのか ~ドイツ大使館取材レポート~

“Globasket United” シリーズの第2回目はドイツ大使館を訪問。ドイツは、日本男子代表チームが、2023年FIBAワールドカップと2024年パリオリンピック大会の両方で同グループで対戦した国です。実はバスケットボールだけではなく、様々なスポーツの強豪国として知られる国でもありますが、ドイツのバスケットボール男子の世界ランキングは、2024年11月時点で3位です。

「ドイツでのバスケットボール人気はたしかに高まっています。まだサッカーほどではありませんが、その人気の高まりは、誰もが感じていることでしょう。」在日ドイツ大使館のFirst Secretary and Cultural Attaché 、Soehnke Grothusen博士はこう述べました。そして、ドイツがどのようにバスケットボールの強豪として名を馳せたのか、またその発展が同国の選手やファンにもたらした大きな影響について詳しく聞きました。

取材には、Public Relations and Cultural Specialistの Sachio Howoldt氏にも同席頂き、ドイツバスケットボール界が辿ってきた道のりや将来目指すところなどについて、包括的なご意見や示唆を頂いた。

スター選手が次世代に影響を与えた

1st Quarter:バスケットボール人気について

ーーー ドイツは一般的にはサッカー王国として知られていますが、2023年FIBAワールドカップで優勝され、今やドイツ出身の人気バスケットボール選手もいらっしゃいます。今ドイツでは、バスケットボールはどれくらい人気があるのでしょうか。また、今のようなステージにたどり着くまで、どのような発展があったのでしょうか。

Dr. Grothusen : おそらく、90年代からNBAで活躍しているドイツ人選手の影響が大きいのではと思います。それに続きNBAで活躍した Detlef Schrempf、 そしてさらに、ドイツ人NBA選手の象徴ともなり、優秀な選手としてだけでなく人格者としても知られている ダーク・ノヴィツキーももちろんです。

ダーク・ノヴィツキーが象徴とされる所以は、彼自身がまさにスポーツの価値を体現するような選手だからです。そしてもちろん、最も最近のスター選手といえば、Dennis Schroder で、彼はまた、ドイツ代表チームを率いて昨年のワールドカップで優勝を果たしました。私はこの3名が、歴史的に重要なドイツ人バスケットボール選手だと思います。私が若い頃からずっと、男の子たちのロールモデルとして認識されていたと思います。

そして現在、バスケットボールの人気は高まっています。もちろん、サッカーと同じレベルというわけではないですが。例えば、数字から見ることもできますが、ドイツのサッカー協会の会員数は、国レベルから地域レベルまで含めて約700万人います。これは、約10人にひとりのドイツ人がサッカー協会の会員であることを意味します。ドイツバスケットボール協会によると、彼らの会員数は、2022年から2023年にかけて、215,609人から242,344に増加しているそうです。これは、ドイツのオリンピックスポーツ連盟の中では、16位にランキングされます。1位はもちろんサッカーで、2023年の会員数は7,364,775人です。

でもバスケットボール協会の会員数が増え続けていることはたしかです。そして、ご指摘の通り、昨年マニラで開催されたFIBAワールドカップでドイツ代表チームが優勝したことが、大きく影響しています。

ーーー改めまして、おめでとうございます。本当に素晴らしい勝利でした。

Mr. Howoldt :ドイツバスケットボール協会は、ユース育成に注力し、かなりの労力を費やしています。そして、U18カテゴリーの欧州選手権で優勝するなどの成果も出しており、さらに注力しています。また、バスケットボールの特徴としては、もちろんスポーツでもありますが、サッカーと比較すると、ドイツではよりライフスタイルに近いものであると捉えることができます。

ドイツバスケットボール協会の情報によると、彼らはソーシャルメディア、とくにインスタグラムにかなり注力しているのだそうです。ユース育成に注力する一方で、ソーシャルメディアで多くの人々にリーチアウトすることに成功していると思います。もしかしたら、スポーツ分野では、ドイツ一のフォロワー数かもしれません。

また、より多くの子ども達がバスケットボールをしたいと希望するようになってきています。一部の新聞によると、かなりのブームになっており、希望者を受け入れるだけの十分な受け皿がない、というような報道もありました。子ども達はみな、NBAでプレイするドイツ人選手に憧れているのです。

ーーーそれは、ドイツではバスケットボールはより若者向き、若者に好まれているスポーツ、ということでしょうか。それとも他の世代からも好まれているのでしょうか。比較的上の世代の方々はサッカー好きが多いのでしょうか。

Dr. Grothusen : 私の記憶では、バスケットボールは、90年代にアメリカのポップカルチャーとともに人気が出てきたと思います。ヒップホップとバスケットボールは若者との結びつきが強いですから。地域クラブの会員数がそれほど多くないのは、そういった面もあるからではと思います。バスケットボールは、ストリート・スポーツでもありますから、チームに所属せずにプレイを楽しんでいる人たちもたくさんいます。彼らにとっては、バスケットボールはライフスタイルの一部なのです。

ーーードイツには、バスケットボールコートは多数あるのでしょうか?日本では、十分な数のコートがない、公共の場にもっとコートが必要だ、という声をよく耳にします。ドイツでの状況はどうでしょうか。

Dr. Grothusen: ドイツでは、おそらく1キロ圏内にひとつくらいはバスケットコートがある地域が多いと思います。

Howoldt: その点は、ドイツと日本との大きな違いかもしれませんね。ドイツではスポーツクラブという文化があり、地域に根付いています。ドイツのほとんどすべての市町村にスポーツクラブがあり、料金を支払えば、手軽にテニスやバスケットボール、体操などのスポーツを楽しむことができます。

2nd Quarter: スポーツ政策について

ーーードイツでは、バスケットボール以外のスポーツも含めたスポーツ全体の発展を管轄する政府組織はありますか?何かスポーツ政策が導入された経緯などはあるのでしょうか。

Dr. Grothusen : 中央政府の組織としては、通称BMIと言われるMinistry of Interiorがあります。

BMIの管轄は、ドイツ国内におけるスポーツ活動です。政府の助成金も統括しており、様々なスポーツ協会やオリンピックスポーツ連盟のみならず、国レベルから地域レベルまで、クラブや協会への助成も行っています。これが、中央政府機関の主な機能です。

もちろん、それは省庁の機能であり、他に様々なスポーツプロジェクトがあります。私の経験からすると、国際理解のためのツールとしてのスポーツの価値は、スポーツが多様な社会的背景をもつ人々がつながることができる、ふたつの文化のうちのひとつだということです。

サッカーのドイツ代表チームを見てみても、おそらくそれがドイツ社会を体現する重要な象徴となっていることがわかります。移民の選手や貧しい家庭出身の選手など、様々なバックグラウンドの選手たちが、社会的背景など関係なく至近距離でプレイし競う姿からも理解することができます。

ーーー そのお話からデニス・シュローダーのことが想起されます。パリ2024大会でのドイツ代表選手団旗手にファン投票で選出された際、これまで黒人ということで差別されたこともあった、と語っていましたが1、彼のバスケットボール選手としての成功が、彼をドイツのヒーローにしたのですね。

スポーツプロジェクトに関しては、イスラエルでサーフィンを実施したことがありました。その活動では、サーフィンを、アラブとユダヤのバックグラウンドを持つイスラエル人をつなぐために活用しました。貧困や問題のある家庭出身の人々がチームとして団結し、そのような社会環境を体験し、スポーツの価値を感じ、チームの一員であれば、社会的背景など関係ないこと、お金持ちかそうでないかも重要ではなく、学校での問題等も越えて、つながることができたのです。

これは、スポーツだからこそできる可能なことだと思います。このようなことができるのは、スポーツと、あとはおそらく音楽くらいでしょう。スポーツには絶大な力があり、音楽も、人の心をつなぐことができる文化ツールだと思います。

Mr. Howoldt: ドイツには、日本のようにスポーツを専門に統括する政府機関がないことは、(日本の皆さんにとっては)興味深いかもしれませんね。

ーーー 日本には、教育分野を統括する省庁の傘下にスポーツ庁があります。

Mr. Howoldt : Grothusen博士がおっしゃったように、ドイツには省庁レベルのスポーツ統括機関はありません。でも、日本と同じように、ドイツオリンピック委員会がありスポーツ関連組織を統括しています。でもそれは、オリンピック大会レベルの案件で、サッカーやテニス、バスケットボール、体操といった各スポーツにはそれぞれ協会が存在します。

Dr. Grothusen : もちろん、 Ministry of Interiorもオリンピック委員会にある程度の資金提供はしており、オリンピック委員会がその助成を活用してオリンピック大会に関わる任務を遂行しています。そして、さらに補助金も提供しているのです。

Ministry of Interrior参加には、多くの協会が所属しています。ドイツには、日本のような都道府県はありませんが、同等レベルの行政単位として、”Bundesland” があります。補助金はこの Bundeslandを通して各地域に行き渡ります。そしてそれが、前述のような社会体制のために大きな役割を果たすのです。

すべての市町村にスポーツ協会があります。この協会システムこそが、子どもたちに学校生活において楽しむ場所を提供し、彼らを社会とつなぐ場として有効なしくみです。この協会に所属することにより、社会とのつながりを取り戻すことができる子もいます。学校の外で、そのようなことを実現できるのです。そしてそれは、ドイツのスポーツシステムの最も優れている点ともいえると思います。

ーーー地域社会がそれぞれ自律運営できる統合されたしくみを確立されている点は、とても印象的です。

Dr. Grothusen : ドイツでは、子どものいる家庭の多くは、おそらく音楽教室に子どもを通わせ、スポーツクラブにも通います。それは、学校とは別の地域クラブです。この形態は、ドイツの家庭ではかなりありふれた、一般的なことです。

Howoldt: 一部の地域社会だけでなく、政府からの資金援助を受けるための目的もあり、社会全体にそれが浸透しています。

ドイツには、16の Bundeslandがありますが、補助金は各市町村まで行き渡ります。その補助金で地域のスポーツクラブの運営費が賄われているので、地域の家庭にとって、子どもをスポーツクラブに所属させることはお手頃ですし、簡単です。 補助金は小さな市町村の個人にも行き渡り、地域のスポーツクラブに所属するための十分な資金を提供しています。

Continued in Part 2

  1. https://olympics.com/en/news/dennis-schroders-inspiring-journey-of-grit-and-determination ↩︎

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