国際バスケットボール連盟(FIBA)によると、バスケットボールは世界で4億5000万人がプレイする競技に成長しています。米国のNBAはその頂点に君臨し、世界200カ国以上、40を越える言語で放映されていることからもその人気が伺えます。しかし世界的に人気のバスケットボールも、各国でその人気を支える文化的背景や人気度、バスケットボールの社会的価値に対する考え方も様々です。シリーズでお送りする「GlobasketUnited」では、FIBA財団アドバイザーも務める、Next Big Pivot 代表理事の梶川三枝が各国の大使館を訪問し、次の4つの質問を通して、各国のバスケットボール事情についてお話しを聞いていきます。
1st Quarter :各国でのバスケットボール人気について
2nd Quarter:各国でのスポーツ政策について
3rd Quarter:社会貢献のためのバスケットボールの力
4th Quarter :日本のバスケットボールについて
第一回は、2023年日本とインドネシアとともに、FIBAワールドカップの開催国となった「フィリピン」。国連の記念日 (World Basketball Day(世界バスケットボールデー))が制定された初めてのチームスポーツとなったバスケットボールですが、フィリピンは、この「世界バスケットボールデー(12月21日)」制定のために代表団をリードした国で、その国連決議は、FIBAワールドカップの開幕日になされました。
「日本とインドネシアと一緒にワールドカップの開催が決まっていたタイミングで、これを機にフィリピンだけでなく、世界的にバスケットボールが重要な役割を担っていることをあらためて証明する画期的な機会になると、フィリピンの国連代表部は躍起になりました。記念日制定のための代表団はインドネシアやペルー、ニカラグアが主導し、77カ国が共同スポンサーとなり、このワールドデーは制定されたのです」と在日フィリピン大使館の国務次官(公共外交・広報担当)、ダレル・アルタテツさんは話します。
バスケはフィリピンで最も人気のスポーツ
1st Quarter:バスケットボール人気について
―――フィリピンでバスケットボールはどのくらい人気がありますか?プロリーグや組織化された草の根トーナメントなどはあるのでしょうか?
バスケットボールの素晴らしいところは、バスケットボールのゴールとして使える金属製のリングのようなものにボードさえあれば、どこでもプレーできることです。どこにでも設置できるし、技量はもちろん、性別や年齢、貧富の差に関係なく、誰もが楽しめる点が素晴らしいです。
そのため、フィリピンでは、バスケットボールが社会の普遍的存在になっています。フィリピンの自治体の最小単位である「バランガイ」と呼ばれる村の中心には、ホールがあり、そこには必ずバスケットコートが併設されています。そのエリアは集会所としての役割も兼ねていて、草バスケットボールリーグもあり、常に村や都市単位で試合が開催されています。
バランガイ・サン・ロケというチームが、地区優勝をした際の写真。撮影:Claudinn Ezra Galang
またフィリピン・バスケットボール協会はアジアで最も歴史があるんですよ。1975年に設立され、実はNBAに次いで世界で2番目に古いプロバスケットボールリーグなのです。これは、バスケットボールがフィリピンの社会にどれだけ浸透しているかを示しています。
1900年代初頭にアメリカ人がフィリピンにバスケットボールを持ち込んで以来、フィリピン社会は長い年月をかけてバスケットボールを浸透させてきたのです。
ちなみにフィリピンでは、屋根付きのバスケットボールのコートが特に多いのですが、自然災害時に、人々が家を離れて安全な場所に行かなければならない場合の避難所として利用されることもあるからです。
屋根付きのバスケットボールコート 撮影:Claudinn Ezra Galang
―――昨年のFIBAワールドカップも、フィリピンで大きな反響があったのでしょうか?
ホスト国として、正気の沙汰とは思えないほどの熱狂ぶりでした。FIBAの公式発表に載るほど1で、決勝戦を観戦した人の数は3万人を超えたほどです。
フィリピン人はバスケットボールが大好きで、どのチームが試合をしているかはあまり関係がありません。試合があれば、フィリピン人は立ち止まって観戦するし、機会があれば足を踏み入れて試合に参加する。それくらい私たちはバスケットボールに情熱を持っているのです。
2nd Quarter: スポーツ政策について
―――フィリピンには、スポーツに力を入れている政府機関がありますか?ある場合、どのような目的でスポーツを推進していますか?政策や活動の例があれば教えてください。
実は、「スポーツ振興」は、フィリピンの憲法の中にすでに組み込まれています。国家がスポーツとスポーツ教育を支援し促進するという国家政策の宣言に当たります。
フィリピンでは、1990年にフィリピン・スポーツ委員会(PSC)が設立されました。草の根のスポーツ振興を担う主要機関です。これは「学校」という単位から始まるのですが、基本的にPSCの任務は、国全体でスポーツが発展するようにすることです。地域に根差しながら、さらに教育システムにも統合されているのです。
PSCは政府機関であり、教育システムの一部ですので、教育省と密接に連携し、フィリピンのスポーツ発展プログラムを支援するため、国内外にいる関係者とのつながりを見つけ、それを維持し、持続させなければなりません。
さらに、フィリピンオリンピック委員会(Philippine Olympic Committee)があり、これは自律した民間組織ですが、オリンピックを含む国際大会にフィリピン人選手を派遣するための選手選考を担当しています。例えば、アジア大会や東南アジア大会、その他の国際大会への派遣選考も該当します。
政策については、パラロン・パンバンサ(Palarng Pombansa)2と呼ばれるものがあり、(私の記憶が正しければ)16歳未満の学生アスリートを対象とした、地域別対抗戦を指します。さまざまなスポーツを通じて、全国から集まった学生たちが、主催者である県や市などのある場所に集まり、互いに競い合うのです。
スポーツは健全で有益な活動であり、身体的な健康や精神的な健康を促進します。そのため、フィリピン政府はフィリピンの若者の関心を高めることに力を入れているんです。
―――予算面でバスケットボールは他のスポーツよりも多くの配分を得ているのでしょうか?
調べてみないとわかりませんが、リソースには限りがありますからそうだと思います。優先順位をつけなければならないですから。最も多くの(資金的)支援を受けているスポーツという点では、バスケットボールがトップでしょう。ボクシングも、マニー・パッキャオ3などの影響もあり、才能のある選手を輩出したスポーツとして、多くの支援を受けています。他にもフィリピンで人気のあるスポーツはあり、最近は、バレーボールもかなり人気が出てきています。
3rd Quarter から後半に続きます
- FIBA公式ニュースより:大会期間中、70万665人以上のファンが観戦に訪れ、フィリピン・アリーナで開催された共催国対ドミニカ共和国戦では、38,115人という記録的な観客数を記録した。 ↩︎
- パラロン・パンバンサ(Palarong Pambansa、フィリピン語で「ナショナル・ゲームズ」)は、フィリピンの17の地域から学生アスリートが参加する年に一度のマルチスポーツイベントである。1948年に始まったこの大会は、教育省によって組織・運営されている。日本の「国民スポーツ大会/旧国民体育大会(通称:国スポ)」に該当。 ↩︎
- マニー・パッキャオは、フィリピンの政治家、元プロボクサー。ボクサーとしては、世界8階級制覇を成し遂げ、2008年夏季オリンピック大会では、フィリピン選手団旗手を務めた。 ↩︎