Basketball for Social Change

GlobasketUnited

“Globasket United” #4 アメリカ合衆国【前半】

国際バスケットボール連盟(FIBA)によると、バスケットボールは世界で4億5000万人がプレイする競技に成長しています。米国のNBAはその頂点に君臨し、世界200カ国以上、40を越える言語で放映されていることからもその人気が伺えます。しかし世界的に人気のバスケットボールも、各国でその人気を支える文化的背景や人気度、バスケットボールの社会的価値に対する考え方も様々です。シリーズでお送りする「GlobasketUnited」では、FIBA財団アドバイザーも務める、Next Big Pivot 代表理事の梶川三枝が各国の大使館を訪問し、次の4つの質問を通して、各国のバスケットボール事情についてお話しを聞いていきます。

1st Quarter :各国でのバスケットボール人気について
2nd Quarter:各国でのスポーツ政策について
3rd Quarter:社会貢献のためのバスケットボールの力
4th Quarter :日本のバスケットボールについて

バスケットボール発祥の国との対話

“Globasket United” シリーズの第3弾では、バスケットボールの発祥国であり、世界的なバスケットボール人気を牽引してきた米国を特集します。

米国では、スポーツとしてのバスケットボール人気だけでなく、選手育成と地域社会形成の双方に関する強固なシステムが発達していて、バスケットボールをプレーし、バスケットボールに関わる何世代もの人々が育っています。

「アメリカのスポーツシステムの重要な強みは、多くのアスリートが複数のスポーツに親しんでおり、一つのスポーツのスキルを、他のスポーツにも伸ばすことができる点です」と、在日米国大使館 文化交流担当官補のアダム・ギャラガー氏は言います。

対談には、バスケットボールに深く関わってきた兄弟がいる政治分野の担当官であるヌルスルタン・エルドソフ氏も加わり、バスケットボールにまつわる個人的な経験と洞察に溢れた話に加え、女子スポーツの成長を促した「タイトル・ナイン」1の影響などについて、貴重なご意見をご提供頂きました。

1st Quarter:バスケットボール人気について

ーーー「世界バスケットボールデー」の週に、バスケットボール発祥国である米国大使館にインタビューする機会をいただき光栄です。

最初の質問は、バスケットボールの人気についてです。米国ではバスケットボールはどのくらい人気があるのでしょうか?最も人気のあるスポーツですか?あるいは、バスケットボールはスポーツの中でどのような位置を占めているのでしょうか?世界的に有名なNBAがありますが、他にも草の根的なトーナメントやリーグはありますか?

また、バスケットボールを始めたいと思っている少年少女が、どのようにバスケットボールに関わるようになるのかということにも興味があります。米国ではバスケットボールのコートがたくさんあるそうですが、バスケットボールを始めたい子どもには、どのような機会があるのでしょうか?

Mr. Gallagher:バスケットボールは、米国を代表する人気スポーツのトップ3に入っていると思います。私たちの国の強みの一つは、「マルチスポーツ」の考え方を持っていることです。

ここ日本では、多くの学生やアスリートは1つのスポーツだけに集中することが多いですが、米国では、陸上、バレーボール、テニスなど他のスポーツに加え、バスケットボールとフットボール、バスケットボールと野球、あるいはその3つすべてをプレーするという人もいるんです。

Mr. Eldosov : 私の場合思い浮かぶのは、(バスケットボールへの)アクセスのしやすさですね。

私は中央アジアで育ったのですが、そこにはバスケットボールのコートはほとんどありませんでした。その代わり、サッカーはとても人気があったんです。それはサッカーボールさえあればできるスポーツだったからなのですが、子供の頃に米国に引っ越してきて、初めてバスケットボールを手にしました。米国で生まれた人も、移民として米国に移り住んだ人も、(米国では)バスケットボールのコートを簡単に利用することができます。

同時に、(バスケットボールは)地域コミュニティをつなげる役割も果たしています。5、6歳でも、地元のリーグや市レベルのリーグに登録できますし、たいていはそれほど費用がかかりません。そして、もっと年齢を重ね、上手になれば、遠征するチームやAAUリーグ2があります。

ーーー 日本ではバスケコートの数も限られているし、お金もかかります。バスケットボールといえば、一般的に米国の文化の一部と考えられているのでしょうか?どうすれば人々の生活の一部になると思いますか?

Mr. Gallagher:アメリカではバスケットボールはどこででも楽しめるスポーツの一つです。そのため、ほとんどすべての子どもたちが、成長する過程でレクリエーションや体育の授業でバスケットボールをしています。そして、プロレベルでもまた違った形で国をひとつにしていると思います。

私は以前、ゴールデンステート・ウォリアーズの本拠地であるカリフォルニア州のサンフランシスコに住んでいたのですが、サンフランシスコには独特の文化があり、またテクノロジーに力を入れているので、いろいろな意味でアメリカの他の地域とは違う国のように感じられます。

しかし(バスケットの側面から見ると)結局はクリーブランド(米国中西部にあるオハイオ州の都市でキャバリアーズの本拠地)と大差ないように思うんです。サンフランシスコとクリーブランドはまったく異なるように感じられる2つの都市ですが、ウォリアーズとキャバリアーズのどちらも熱狂的なバスケファンを抱えています。つまり、バスケットボールは、米国のまったく異なる異質な地域間の共通言語のようなものなのです。

Mr. Eldosov:私もそう思います。私はキャバリアーズがレブロン・ジェームズをドラフト指名する1年前に米国に引っ越してきました。レブロン・ジェームズと共にに育ち、テレビを見て英語を学んだんです。そのおかげで、「NBAにはチームが30もあるんだ」とか、「全米中に他のバスケファンがいるんだ」と知ることができました。私はゴールデン・ステートの大ファンではないのですが、バスケで熱狂し、優勝することがどんなことなのかはよく知っています。

ーーーお二人からそれぞれのストーリーをお伺いできてありがたいです。次に、草の根的な動きについてもお伺いしたいのですが、バスケットボールはほとんどの子どもが学校やAAUでプレーできるとおっしゃっていました。日本にも体育の授業はあり、ほとんどの生徒がバスケットボールを体験しますが、日本の学校の部活というシステムではひとつのスポーツに取り組みます。より多くの生徒が複数のスポーツを経験しながらもバスケットボールに興味を持つのはアメリカにどのような授業や学校のシステムがあるからなのでしょうか?

Mr.Gallagher:全米中の体育の授業でバスケットボールがあり、生徒たちが学校でのバスケットボールの授業に参加するのはかなり一般的です。しかし、ヌルスルタンが話したように、実際は、体育の授業でバスケットボールを習うより前に、近所のバスケットコートに地元の子どもたちが集まったり、自宅に取り付けたバスケットフープの周りに子どもたちが集まったりすることが多いのではないでしょうか。”ノックアウト”や”PIG”といった遊び的な練習など、必ずしも組織化されたバスケットボールをするのではなく、フープがあればできるプレーを色々と楽しむ感じです。このような遊びが、地域を一つにする素晴らしい機会になっていると思います。

Mr. Eldosov:(日本とは)住環境の違いがありますね。米国では、裕福な地域でなくても、バスケットフープを置くのに十分なスペースがあって、室内の壁にもとり付けることができる家が多いですから。また、バスケットフープは親と地域を一つにする力があります。小さい頃から一緒にプレイして、バスケに真剣な子どもたちが育つと、親たちが協力して遠征チームに入れたり、より強いチームを作る目的で同じ高校に通わせるといったこともあります。親たちはそれぞれの戦略を立てますが、AAUチームの中には費用が高いところもあるので、どの程度費用負担できるかはそれぞれの家庭によるでしょう。

ーーー以前、米国のバスケットボールクリニックで、親向けガイダンスに「あまり勝ちにこだわるな」という記載を見たことがあります。プロになれば大金を稼ぐことができるため親の期待が過剰になってしまうのでしょうが、日本ではそのような文面を見たことがありません。最近ならあるのかもしれないのですが。

Mr. Gallagher:そうですね。おっしゃるようにそのようなガイダンスがあること自体、親がいかに(将来性のある)子どもに投資しているか、息子や娘にプロリーグでプレーしてほしい、いい大学に進学してほしいと思っているかのあらわれなのかもしれません。親心を感じます。

Mr.Eldosov:私にとって興味深いのは、成功の定義ですね。というのも、アメリカでは、ある親たちは自分の期待をうまく調整して、『とりあえず、息子や娘がD23やD3に進むか、奨学金を得るか、D1に進むことを望んでいる』と言うのです。つまり、子どもたちがプロとしてプレーすることを必ずしも期待しているわけではないのです。

学業も重要視する日本の親にとって、息子や娘がアメリカで良い教育を受け、たとえNBAに行けなくても奨学金を得てバスケットボールをプレーする姿を見ることは、目標になり得るのではないか、という気もします。

このようなことを考えると、私はパッと渡邊雄太選手を思い出します。彼は私の兄と同じ時期にジョージ・ワシントン大学(GW大)に進学したのです。彼のGW大時代はよくプレーを見ていましたので、ああ、NBAのスターになったんだな、と思っていました。

もう一人、ネブラスカ大学出身の冨永選手がいたと思いますが、彼は一度インディアナ・ペイサーズと契約して、今はGリーグのチームでプレーしていますよね。彼はビッグ10でプレーして、中西部の多くの人々が彼のプレイを見ることになりました。富永選手はスリーポイントシュートを決めまくるので、彼らは彼のことを和製ステフ・カリーと呼んでいます。彼のインタビューを見たことがありますが、彼は良い教育も受けられると日本で評価されているようでした。

2nd Quarter: スポーツ政策について

ーーー日本の選手についてご存知でうれしいです!教育が私たちの生活の重要な部分であることについて、私も賛成です。

では、2つ目の質問に進みますね。アメリカのスポーツ政策についてです。100年以上の歴史を持つAAUのような確立されたシステムが生まれた背景は何ですか?米国は、スポーツにどのように投資していて、政策やシステムは子どもたちがプレーを続けられる道筋をどのようにサポートしているのでしょうか?

Mr.Gallagher:米国で最も影響力のある政策の一つは、バスケットボールだけでなく、すべてのスポーツの観点からも、女性にスポーツへのアクセスを可能にした『タイトル・ナイン』(という法律)だと思います。

この政策は長らく続いてきたスポーツ活動の継続、そしてひとつひとつのスポーツの試合に大きな影響を与えました。タイトル・ナインを通じて、私たちは人口の半分に、他では得られなかったような機会を与えることができました。私たちの政策は、(男性と)同じレベルで競技をしたいと望む女性たちにリソースを提供しているのです。米国では依然としてジェンダー平等の問題は存在していますが、このように女性の競技を育成できることを誇りに思っています。

ーーー日本にもそのような考え方があればいいなと思います。すべての性別の若者がプレーを続けるための道筋として、AAUや地域のコート、そして中学校や高校のチームがありますが、米国のスポーツを統括するシステムはどのようになっていますか?

Mr.Gallagher:米国では、スポーツは政府主導ではないため、スポーツに関する省庁は存在していません。プロリーグやそれに準じた組織がありますが、それらはおおむね自己運営されています。基本的には利益主導のビジネスであり、それがうまく機能しています。

若い学生の育成に関しては、残念なことに、機会が民間部門に依存しています。ヌルスルタンが言ったように、AAUに参加する費用は非常に高く、会費だけでなく、週5回の練習や、異なる州で行われる可能性のあるトーナメントにかかる費用も必要です。リソースを提供しようとする非営利団体はありますが、これらの機会をより多くの人々に提供するための政府の政策やプログラムは、私の知っている限りあまりないと思います。

ただ、バスケットボールの本当に素晴らしいところは、再びアクセス可能性の話に戻りますが、NBAのスターになるには必ずしもAAUの選手だけではないということです。AAUシステムやプライベートな仕組みの枠に入っていなくても成功することはできるのです。

Mr.Eldosov:行政規則に関して言えば、各州には、例えばオハイオ州ではOHSSAA(オハイオ州高校スポーツ運営協会)という組織があって、彼らがすべてのスポーツを統括しています。その組織では必須要件があり、例えば、学生は2.0以上のGPAが必要という学業要件などをクリアする必要があります。その要件を満たさなければ、チームが特定のトーナメントに出場できないのです。必須要件の内容はその地域の人口によりますが、この規定はなかなか厳格です。

バスケットボールは非常に人気があるため、バスケットボールに関する政策がどのように設定されるべきかはすでに理解されています。サッカーを見てみると、バスケットボールほど人気がなかったため、努力が必要でした。バスケットボールは非常に優位な立場にあるので、地域社会が公園を作る際にバスケットボールコートを含めるべきだと説得する必要がないという点で、サッカーと比較して、その違いがより明確に分かります。サッカーのようにゼロからスタートするのに対して、バスケットボールは130年以上の人気を誇っていますから。このようにサッカーとの比較が、米国のスポーツ関連のシステムをよりよく理解する手助けになるかもしれません。

ーーーそれは興味深い点ですね。バスケットボールはすでに長い歴史と人気があったため、組織体系的な管理はそれほど必要なわけではないということですか。

Continued in Part 2

  1. タイトル・ナインとは、1972 年6 月23日に成立した、アメリカ合衆国の公的高等教育機関における男女の機会均等を定めた連邦法の修正法。「教育改正法第9編」から米国内では「タイトル・ナイン」として呼称されている。 ↩︎
  2. AAU(Amateur Athletic Union)とは、米国のバスケットボールに関するユーススポーツイベント運営の非営利組織で、全米のクラブチームを束ねる存在。 ↩︎
  3. D1,D2,D3 とは Division 1,2,3の略。全米大学体育協会(NCAA)の大学スポーツのカテゴリーに該当し、大学バスケの最高峰リーグ。学生数や財力、スポーツのレベルでディビジョンが分かれており、バスケは3つのディビジョンがある。D1は最も競争力が高く、多くの奨学金が提供されている。 ↩︎

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